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2011-02-10ICTの歴史とUIコンセプトの歴史(その6)

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アプライアンスとは?

アプライアンスは一般的には「家電製品や電気器具」という意味で使われる場合が多いようですが、尾上さんがおられたリコーでは「アプライアンス・Appliance」は登録商標になっていて「作業のしやすさ」「管理のしやすさ」「情報活用のしやすさ」を目指したリコーのお客様への価値提供の考え方、と位置づけられています。高度な技術を誰にでも簡単に使える機能に仕上げる、といったニュアンスで使っておられて「アプライアンス・カンパニー」を企業ポリシーとして謳われているのです。日立製作所の家電部門が日立アプライアンスと社名にしているのは、ごく一般的な家電を意味してのアプライアンスです。オフィス機器のリコーがアプライアンスという言葉をわざわざ商標として使うのは、ややもすると専門的で難しく大げさになりかねないオフィスの機械を、簡単・便利に扱いやすい道具にするための縁の下の力持ちのような技術力を押し出すため、と捉えてよいでしょう。


すなわちここで「アプライアンスとは?」を問いかける理由は、リコーがお客様への価値提供とした「使いやすさ」とはそもどのようなことなのか、を哲学しておきたいと思うからであります。「使いやすさ」は簡単な言葉だが含まれている意味は複雑です。例えば「使いやすいね!」と賞賛して言うとき、その使いやすさは誰にとってもと言う標準的価値が含まれ、また日用品が持っている手軽で便利にも近いニュアンスも、またさらに実用性が高いという評価も含まれ、用途的にも幅の広さを感じさせる、と言った具合に多くの特長を備えている事を指しています。以上のような沢山の「使いやすい!」の意味を持った「アプライアンス」を、ここまで見てきたコンピュータの世界とOA機器の世界で捉えなおしてみたいと思います。


コンピュータはそもそも計算機ですから、計算するところならどんなところでも使える汎用性が大事な機能でした。特に当時はまだパソコンといえども高価でしたから、オフィスに導入する際にいろんな使い方ができる方が喜ばれました。よって、汎用性を重視したコンピュータ設計の基本構造になっていましたが、その一方でその汎用性を使いこなすための技術とその学習が要求されました。対比的にワードプロセッサとの違いを見てみると、CPUによる演算処理から表示部、キーボード入力などコンピュータとほぼ構造は同じですが、コンピュータはアプリケーションソフト次第でどんな用途にでも展開可能で、一方ワードプロセッサは文書作成しかできないが文書作成はの目的には「使いやすさ」を実現している、という違いがありました。


ユーザサイドから捉えると、ワードプロセッサは文書作成に最適化されていますので完成度の高い文書を初心者でも容易に作ることができます。その意味でワードプロセッサはコンピュータ処理を活用した「使いやすい文書作成」を実現したアプライアンス製品です。コンピュータの技術を文書作成ツールとしていち早く取り込んだアプライアンス機器がワードプロセッサだったのです。このようにアプライアンス機器として生まれたワードプロセッサですが、その後普及していくパソコンのアプリケーション機能としてジャスト社の一太郎のようなソフトウェア製品に姿を変え、ハードウェアと一体化された製品としてはやがて消えてしまいました。


ワードプロセッサと同じく当時の先端技術であるコンピュータ技術をオフィスワーカーにとって使いやすいアプライアンスツールとして構築したのが、Starワークステーションであり、その後継者であるMacintoshでした。StarやMcIntoshとIBM-PCが似て非なるものであるところが、ここにあります。すなわち、IBM-PCはプログラム次第で何にでも利用できる汎用性が売り物でしたので、コンピュータとしては原理的な仕組みだけが搭載されていて、利用するためにはその利用目的に沿ったアプリケーションソフトを設計するか、ひな形的なアプリケーションソフトを目的に合わせてカスタマイズする、といった使い方が基本だったのに対して、StarやMacintoshは最初からオフィスワークに最適化した環境(デスクトップ)と代表的アプリケーションをプリインストールされ、買ったその日から誰もがその機能を使って仕事ができる仕組みが提供されたのです。すなわち、コンピュータの機能を一般的なオフィスワークに適したツールとして使いやすくアプライアンス機器化したのが、StarでありMacintoshだったのです。ですから、ハードウェア的にはほとんど同じ仕様だったのですが、機器としての存在は全く違うものだったのです。そしてその存在の違いを決定的にしたのがGUI(グラフィカルユーザインタフェース)だったのです。GUIはその後Windowsにも搭載されて一般化していったのでコンピュータの進化における一側面として捉えられていますが、実はその誕生の時は一般的なオフィスワークに焦点を当てたアプライアンスツールとして設計されたのだと言うことを強調しておきたいと思います。


オフィスのアプライアンスツールとしてのMacintoshを振り返るときもう一つ注目しておきたいのが、プリインストールされたアプリケーションソフトについてです。Macintoshの本体には最初から文書作成MacWrite、図を描くためのMacDraw、絵を描くためのMacPaint、さらに1987年にはビルアトキンス開発のHyperCardといったオフィスワーカーなら誰もが使うであろうツール類がプリインストールされ、買ったその日から本格的なオフィスツールとして直ぐに役立つ仕組みを持っていたのです。そしてこれらのツールをシームレスに使いこなせる仕組がGUIに備えられていた。逆に言うとオフィスで誰もが行う共通ワークを実行できるアプリケーションとそのオフィスワークに最適化された環境(デスクトップ)がハードウェアと一体に組み立てられていた。このことをMacintoshはオフィスにおけるアプライアンスツールだった、と称しているのです。

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その後のコンピュータ業界全体の成長はMacintoshにも恩恵を与え、1980年代から1995年、すなわちWindows95が発売されるまでは、PC/AT互換機に負けないシェアーを確保していたのです。1990年前後のMacintoshの盛り上がりは相当なモノでした。毎年開催されていたマックEXPOは、ビジネスショーやモーターショーにも負けないほどの盛況ぶりで、私の住む京都の電気街寺町通りにもMacintosh専門店が数軒並んでいました。が、いかんせん世界中のコンピュータメーカー対アップル1社という多勢に無勢の業界勢力図には抗うすべもなく、90年代後半にはあわや倒産というところまで追い詰められるという衰退の一途を辿ったのは、当時のオフィスツールとしてPC/AT互換機、Windowsの汎用性に価値があったからです。すなわち「使いやすい!」のアプライアンスよりも「みんなと一緒!」デファクトスタンダードに軍配が上がったのです。


残念なことですが、このオフィスアプライアンスツール=プリインストールされた仕立ては、皮肉なことにMacintosh市場の成長と共に崩れ、上記アプリケーションのプリインストールもなくなり、PC/AT互換機に習ってMacintosh互換機発売(当時はユーザーの一人としてしめたと思いましたが)へとPC/Windowsとの対抗的姿勢がつよくなり、すなわちアプライアンスとしての魅力はなくなり、自滅の一途を辿ることとなったのです。


ところが神様はアップルのアプライアンスモノづくりの姿勢を見捨てなかった。そうです、iPhoneによってアプライアンスのものづくりが蘇ったのです。(つづく)