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2014-07-31

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 コンピュータとネットワークの技術革新によって知識環境は飛躍的に膨張拡大し、同時にバザール型漸次更新集合知「Wikipedia」を生み出した。さらに近年は、限りなくリアルタイムに近い「Twitter」や「YouTube」といったコンシューマジェネレーテッドな情報共有へと進化し続けている。

こうした多元的で動的な情報環境に対して受動的な状況だけでは、その場その場で一喜一憂し情報に流されていくだけになってしまう。せっかく革新的な技術進化を手に入れているにも関わらず、従来メディアで培ってきた大事なナレッジを捨てていくことになりかねない。

 この様なめまぐるしい変化や過剰な情報に対して、客観的視点を持つ方法として「俯瞰」がある。情報共有のための意味空間配置フレーム「思考地図」は、刻々と変化する動的な環境の状況把握や、その分析から戦略構想まで汎用的に適用できる、意味空間ハンドリングのための「俯瞰」の手法である。ヒューマンインタフェース学会シンポジウムで発表している論文をベースに、「思考地図」について改めて解説をしていきたい。


 概念マップについて

 知識や情報の関係性を空間配置することによって、文章では伝えにくい複雑な概念を容易に表現することができる。こうした空間配置による意味構成は一般的に「概念マップ」と呼称されている。様々な概念マップを比較し、その特徴と可能性を探ってみる。(図1概念マップの比較参照)

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 ここで取り上げる概念マップは以下の6種類。

1.マインドマップ[1]

自分のイメージを中心に放射状に発想を描いていく図解表現技法で、頭の中にある複雑な概念をコンパクトに且つ素早く描くことができる。

2.トピックマップ[2]

情報を表す要素として、トピック、関連、出現がある。マインドマップ、コンセプトマップと同等の発想表現法だがトピックマップはISO標準である。

3.コンセプトマップ(概念地図法)[3]

一連の概念(名詞の場合が多い)をフレーズや動詞で結びつける形式を取る。このコンセプトマップは教育現場で利用が広がっている。

4.空間象徴図式[4]

通称「バウム(樹木画)テスト」と呼ばれ、白紙の紙に実のなる樹を描いて、その樹の配置や形から心理状態を分析する分析指標としてGrünwaldの空間象徴と呼ぶ概念配置図が用いられる。

5.プロダクト・ポートフォリオ[5]

市場成長率と市場占有率のマトリックス上に自社製品を配置し、各象限毎の事業の位置づけを判断していくための、事業戦略マネージメントフレーム。

6.知識スパイラル(SECIモデル)[6]

「個人の知識を組織的に共有し、より高次の知識を生み出す」ということを主眼に置いたナレッジ・マネジメントを実現するフレームワークとプロセスのモデル。


 概念マップの二つのタイプ

 上記の概念マップを比較し、それらの特徴とその機能と役割を探ってみる。図1に示すように概念マップの空間利用方法は大きく2種類ある。

図の上部に配置したマインドマップ、トピックマップ、コンセプトマップに共通して認められる特徴は、個々の概念間の順序、関連、包含といった関係性を表現するために空間配置を利用していることである。個々の概念の意味連関によって漸次生成され、内から外へ拡張しながら構築していく概念マップである。これを「意味関係記述型概念マップ」と呼ぶことにする。

 これに対して、空間象徴図式、プロダクト・ポートフォリオ、知識スパイラルは、空間全体の左右上下方向に対概念を持たせた空間フレームを構成し、その空間フレーム内に相対的に概念やイメージを配置するマップで、上下左右の2軸の空間フレーム内に意味を創出し、その創出された意味空間に様々なイメージや概念をプロットしていくという、外から内へと構成していく概念マップである。これを「空間フレーム型概念マップ」と呼ぶことにする。

 前者の内から外へと構築する意味関係記述型概念マップは、頭の中での思考を外在化する用途として使われている。そのため結果としてできあがる概念マップは個人性が高く、本人以外の者にとっては理解しにくいケースが多くなる。もちろん頭の中にある暗黙知を形式知に変換する第一歩のところで使うマップなので、最初から形式知としての普遍性を要求する必要はないし、普遍性を意識して最初からマッピングすると、本来の思考の自由な抽出は難しい。

これに対して、後者は空間フレームに付された軸概念が先にあるため、その座標軸を理解することによって、概念マップの役割が理解でき、その後に空間フレーム内の個々の情報とフレーム概念との相対的な関係で理解を深めていくことができるため、全体俯瞰から部分へという情報提供の仕組みを持っているといえる。

本論で展開する思考地図は、情報共有を目的とした俯瞰フレームであり、その意味で空間フレーム型概念マップに位置づけられるものである。


 空間象徴図式

 コッホによるバウムテスト[4]は、Grünwaldの「空間象徴図式」(図1左下)を背景とした心理臨床テストで、人間の心理と空間イメージの関係図式を利用したテストとして世界的に有名であり、人間の頭の中に空間配置の法則が暗黙知としてあることを教えてくれる。

その空間象徴図式は半世紀ほど前の発表だが、近年日本でも統計的な手法を使った研究がなされ、言葉と空間の関係性について、細部での留意すべき点の指摘と同時に基本的な空間象徴性についての実験が報告されている。

 空間象徴図式は、人間誰もが経験する成長プロセスを背景としている。例えば上下の意味関係は大地(下方)に対して上方へ成長する姿から生まれ、それは樹木の成長と符合しているところからバウム(樹木画)テストが生まれている。また、左右に対しては、右利き優位が右方向の能動性に関係している、文書記述が左から右への移動を基本にしている、右脳は左空間を処理していて、左脳=右空間よりも受動的反応力の優位性が認められる、などの諸説がある。

 このような空間象徴性を背景に、我々は日常使っている言葉においても方向性をイメージしている。例えば「空気」は上方で「大地」は下方、「過去」は左で「未来」は右方向へのイメージスキーマを持っている、など。こうした言葉と空間の関係性に関して、空間メタファーを中心に言語の仕組みをひもといた瀬戸の研究では[10]、洋の東西を問わず言語の世界では、空間を表す言葉を概念に利用し、分かりやすく意味を伝えようとしていることが報告されている。言語という思考の基盤と空間象徴の密接な関係を示す研究として参考になる。

またこうした人間共通の空間認識は日常の中に暗黙知として組み込まれており、ビジネス世界での多くのフレームワーク(例えば図1の空間フレーム型概念マップに入っている知識スパイラルなど)にも、左右上下の概念の共通性が認められる。


 空間フレーム型概念マップの課題

 以上のように空間象徴図式は人類共通の空間認識であり、普遍性の高い思考モデルとして様々な用途に利用されるべきである。特に先に見た「意味関係記述型概念マップ」と「空間フレーム型概念マップ」とを統合して使うと、フレーム共有を図りながら個々の意味記述もできるという、高度な利用が可能な概念マップが考えられる。しかし、空間象徴図式が1970年にバウムテストで利用されてから既に40年経っているにも関わらず、ビジネス世界で空間象徴図式をベースとした概念マップを利用している事例は少ない。時々同じような左右上下の座標を見かけることはあるが、空間象徴図式のような空間フレームとしてきちんと解説したものはまだ見かけない。

 筆者が2軸の空間フレームを考察し始めたのは20数年前に遡り、主にビジネス雑誌や書籍の中で表現されている概念マップに注目し収集を始めた。当時2軸を使った空間フレームで分析した概念マップを多く収集できたのは、意図的に収集したからだとは思うが、その初期の恩恵を差し引いたとしても、2軸の空間フレーム型概念マップを見かけることは、徐々に少なくなってきている気がする。

その要因として、二つあげておきたい。

 ひとつはメディア技術の特性要因で、コンピュータやネットワークが、テキストをハンドリングすることをベースに作られていて、空間フレーム型概念マップを記述し通信共有するのは簡単ではない、というところにある。コンピュータやネットワークのプログラミングも、また日常利用するワープロや文書の多くも、テキストベースでのハンドリングが前提である。それでもパソコンやインターネットが登場した頃とは見違えるほど図や映像のハンドリングは容易になってきてはいるが、紙媒体と手書きをベースにとしてきた1980年代までのメディアとは、空間表現に対する自由度は大きく異なっている。

 もう一つは空間図式の記述と解釈の難しさである。特に空間象徴図式の上下軸に配置した言葉と意味は抽象度が高く難しい。2軸フレームで4象限に付された言葉や意味も、心理世界との符合を背景に書かれた言葉が多く、ビジネス世界で流用するには難解である。また、プロダクト・ポートフォリオ、知識スパイラルでも、テキスト世界の文法のような構造モデルが存在しないことが、要因として大きいのではないかと考えている。


 参考文献

[1] T.ブザン,B.ブザン:ザ・マインドマップ, ダイヤモンド社(2005)

[2] 内藤, 加藤ら編著:トピックマップ入門, 東京電機大学出版局(2006)

[3] J. D. Novak:http://www.ihmc.us/groups/jnovak/

[4] C.コッホ:林, 国吉, 一谷(訳): バウム・テスト-樹木画による人格診断法,日本文化科学社,(1970).

[5] 大前:企業参謀, プレジデント社, (1991)

[6] 野中,竹内:知識創造企業,東洋経済新聞社, (1996)